高桑靖之シェフは、いわば「野性児」。
ご本人は「児という年齢ではないですが」とおどけます。

猟期はみずから野を駆けて鴨やキジバト、キジなどの鳥類を撃ち、
春は野草や山菜を採り、秋は山でキノコを獲る。
そればかりか、東京西部の牧場の牛乳から店内のチーズ工房でフレッシュチーズを作り、
生ハムなどサルーミ類も作って店内の一角に吊るす。
これを地方で行うならまだしも、
東京のど真ん中でされているのです。
(一社)SALUTEが知識と経験から与える食材情報などどこ吹く風というように、
この時期の体が求める食材を、
修行先であるプーリア料理を主体に仕立てて、皿に表現してくださいました。
この日のテーマは「春の食養生」。
最初のひと皿は、野生のクレソンと自家製カポコッロに自家製リコッタ。
河原で積んだノビルのフリッタータ。
愛媛のイノシシのレバーペーストのクロスティーニ。
ノビルは体を温め、強壮強精効果があるとされる野草で、八王子まで摘みに行ってくださいました。

自家製リコッタや自家製ノディーノ(結び目があるミニモッツァレッラ)は、フレッシュさが際立ちます。チーズはこの時期に必要な体の水分を増やすとされる食材。

猟期は終わっていたけれど、シェフが獲って熟成させてくださっていたキジバトのソパコアーダ。先に焼いて身をほぐした鳥はスープといっしょに煮込んで、食感はホロホロに。パンと合わせたリストランテ仕立てで。鳩肉は春の五臓である「肝」に作用し、年齢とともに衰える「腎」を補います。

豚の薪火焼きは、こちらのリクエストに応えて、野生のからし菜とその種で作った自家製マスタードソース。寒さが残る早春は、体を温めるからし菜やその種もおすすめ。

最後に、ゼラチンが誕生する前の作り方による、卵白を使ったパンナコッタに、採ってきたシナモンの葉を使った山のハーブティー。シナモンはスパイスとして、体を温める効能がとても強い。

高桑シェフのお料理は、
人は自然に沿って、自然に与えられるもので生きれば健康なのだということを思い起こさせてくれます。
人は、動物と植物が最も生きる力がある時期にその命をいただくことで、最大の力を発揮するのかもしれません。
個性あふれる料理で参加者全員を満足させてくださった高桑シェフ、
北から南までのワインを駆使してペアリングしてくださった本間ソムリエ、
アシストの小川さん、本当にありがとうございました。